Vol.23 旅人の自分だからできること。名寄に人々が集まる「巣」を作りたい
「自分にキャッチフレーズが欲しい」と日本一周の旅に出た
自分は名寄で生まれ育ち、パティシェになりたくて、隣町の下川の高校を卒業した後、大阪の製菓学校に行きました。いざ学んでみると、パン作りの方が向いていそうだなと感じ、就職先はパン屋に。でも仕事が合わず続かなくて、1年でパン屋を2回辞めてしまいました。あの時は、飲食業自体が向いていないのかなと思いましたね。
そこで、いっそいろんな仕事に挑戦したらどうかなと思いまして。そこからは、3ヶ月おきに職業と住む場所を変え、富士山の山小屋で働いたり、ユニバーサルスタジオジャパンの契約社員になったり、シェアハウスで働いたり……というフリーター生活をしてみたんです。
3、4年ほど日本中を渡り歩き、幅広く仕事を経験して思ったのは、やっぱり「飲食業」に関わりたいということ。そして、各地でいろんなところに泊まった経験から、宿をやってみたいと思うようにもなりました。
どうせなら地元である名寄にUターンして開業しようと決意。親兄弟や知り合いが居る地元の方が、何事もやりやすいだろうなと思ったんです。
開業する前に「何か一つだけでも自分にキャッチ―なフレーズが欲しい」と考えました。今までの人生でずっと放浪していて、何も成し遂げたことがなかったから。だから『日本一周した人』っていうフレーズがあったら面白いかもって思いました。
それで、そのとき住んでいた関東からまっすぐ名寄に戻らずに、自転車で日本一周してから帰ることに決めて、その2日後には自転車を買いに行きましたね。
職を転々とした結果、出た答え。「ものづくり」と「接客」のベストな比率
日本一周の旅に出てから8ヶ月。2018年の6月に名寄に戻ってきました。
戻ってきてからは、日本最北のビール醸造所と呼ばれる美深白樺ブルワリーに就職し、ビール作りを学ぶことに。
働いている中で、ふと「名寄にもクラフトビールを飲める場所があったら、僕も飲めるのにな」と思い立ち、それなら作ってしまおう!と始めたのが、前のお店であるビアバー「maltrip」(モルトリップ)です。ここで、美深白樺ブルワリーで作ったビールを卸して提供していました。
3年間maltripを運営していく中で、もう少しお店を広くして、当初の夢でもあった宿もやりたいなと思うようになってきて。そうして移転したのが現在のお店である「BREW HIVE」。1階はビアパブ、2階は10人程度が泊まれる宿になっています。
お店で提供しているビールは、maltrip時代と同様、僕が製造から販売まで一貫して携わっています。たいていは製造と販売で分業されている方が多いので、同業者からは「全部やるなんておかしいよ」と言われることも(笑)
でも、これまでいろんな仕事をやってきて、この生き方が良いって分かったんですよね。たしかに長時間労働にもなって大変ですが、製造も販売も自分でやる方がしっくり来る生き方なんです。
かつて、パンの工場でフランスパンを作っていたことがありましたが、お客さんの反応が見えないままひたすらパンを作れるほど、自分は職人気質にはなれないと思いました。接客して、どんなお客さんが食べるかも知りたいし、反応が見たい。一方、接客の仕事がメインのユニバーサルスタジオジャパンでの仕事も、なんだかしっくり来なくて。やっぱり、僕はものづくりの仕事にも携わりたいんだと気づいたんです。
自分にとっては「製造4割、販売・接客6割」くらいの生き方がちょうどいいバランス。この生き方が自分にとって豊かだなと思っています。
名寄に、人々の集う場づくりを。人との出会いは、自分にとっても必要なこと
店名である『BREW HIVE』は、BREWは「醸造する、醸す。悪だくみをする」という意味で、HIVEは「蜂の巣」って意味なんです。名寄内外の人が集まって、このお店で出会って、またどこかに飛んで行ってもこのお店に戻ってきてくれる……。そんな思いを込めてこの名前にしました。
名寄って、とりわけ観光地という訳ではないと思うんです。だからこそ、名寄の外から人を呼べるような動線を作りたくて。
第一、僕自身が人に会いに旅したくなってしまうんですよね(笑) いつも同じ人と会うばかりではなく、新しい人と会わないと僕自身が飽きてしまうので。そういう意味では、外からの動線作りは、旅人だった自分の役目なのかも。
名寄の外の人が集まる場づくりの一つとして、2024年頃にはお酒のイベントをやりたいなと思っています。2023年末に下川にビール工場もできますし、ワイナリーも名寄にあるので、道北のお酒を販売したい。近隣の飲食店にも出店をしてもらって、そこに旭川、札幌、東京とか、道北以外の人を呼んでいきたいですね。
名寄の外の人が、名寄に来るきっかけ作りができたらと思っています。
プロフィール
風間 健
1992年名寄市生まれ。日本各地で働き、自転車で日本一周をした後、2018年に名寄へUターン。クラフトビールの作り手である自らが店頭に立つビアパブ「BREW HIVE」の経営の他、ゲームバーである姉妹店「Bar Quarto」の運営にも携わる。
お店に来るお客さんは、SNSでうちのことを知って来てくれた方も多いです。取材日の今日は大学生の旅人が来てくれました。すごく面白い子だったので、今度やるビアフェスのバイトに誘ったんです(笑) 旅行では、ただ旅をするだけじゃなくていろんな出会いがあった方がエピソードとして面白くなる。僕の経験上そう思うんですよね。
BREW HIVE
- 名寄市西3条南6丁目
- 【ランチ】11:30~14:00 定休日:水・木曜日
- 【ディナー】18:00~23:00 定休日:水曜日
- Instagram:BREW HIVE