Vol.10 大学卒業直前に決めた起業。夢だった居酒屋をオープン
自分がやりたいことに向き合い、出てきた答え
実家が農家だったからだと思うんですけど、食に携わりたい、料理人になってみたいと高校生の時に思ったんです。ただ、飲食店のアルバイト経験もありませんでしたし、料理1本で生きていくには大変そうだなと思って、名寄市立大学の栄養学科を志望しました。「居酒屋をやりたい」という夢も、管理栄養士として働いてお金を稼いでから、なんなら50代くらいからでもいいと思っていたぐらいです。なので、卒業後は札幌近郊で管理栄養士としての就職先も決まっていて、4月からは札幌市で生活する予定でした。
ですが、4年生の後半、卒業論文を書きながら高齢者医療・介護の現場で実習や調査を繰り返していた頃、とても大変で精神的に追い詰められたんですよね。ふと改めて「本当に自分がやりたいことってなんだろう」っていう問いにぶち当たったんです。それで、どう考えても、これ(居酒屋)しかなかった。もう、50歳までなんて待てないなと(笑)
支えてくれる人の顔がしっかり見える名寄で始めたい
そこから、いろんな人に「居酒屋がやりたくて」と言って、言って、言って。同時に、やっぱり初期投資がかかるから、3年くらいは実家から通えるところで働いてお金を貯めて、それからオープンしようかとも思っていました。そんな話も含めて相談していたときに、そこまで覚悟があるなら投資するからやってみなよ、とサポートしてくれる方たちが現れたんです。
最初は、東川町で始めるという話もあったのですが、知らない人と土地で始めるというのがピンと来なくて。大学の先輩や後輩、先生、親身になって相談に乗ってくれるアルバイト先の店長や飲食業の先輩たち、飲み友達。名寄なら、支えてくれる人の顔がしっかり見える、オープン後のイメージができるなと思いました。
卒業直前の1月にいまの空き物件が見つかって、就職予定だった施設と親に「名寄で居酒屋をオープンさせることになったので」と連絡をしました。親も驚いていましたが、昔から割とそういうところがあって。大学の進学も高校1-2年生まではバイオテクノロジーとかを学びたいと思っていたんですけど、3年生の夏を過ぎてから、栄養学科に進路変更しましたからね。
相談に乗ってくれ、サポートしてくれ、応援してくれる優しい人たち
名寄は、とにかく優しい人が多い街ですよね。オープン時、地元のフリーペーパーや新聞に取り上げてもらったら、たくさんの人が「こないだまで大学生だったんでしょ?」「新聞見てきたよ!」「頑張って!」と気にかけて飲みに来てくれました。大学卒業したばかりのヤツが店をやるなんて言ったら、総スカンを喰らうんじゃないかな、叩かれるんじゃないかな、って思っていたんですが、まーったくそんなことないですね。居酒屋をオープンすると決めてから、アルバイトでお世話になっていた店の店長に、仕入れ先を紹介してもらったり、経理のことや、経営者として必要なことを教えてもらったりして、店舗経営の内側を見せてもらいました。メニュー開発と宣伝のために、イベントとして店舗を貸してくれた喫茶店のオーナーもいます。
大学時代から、割と積極的に大人とつながりをつくるようにしていました。学生だけのつながりではなくて、社会人のみなさんとも仲良くなりたいと思っていて。他の地域はわからないので比べられませんけど、名寄は、本当に優しい大人が多いですね。ですので、新しいことを始めるのに、ハードルはそんなに高くないと思いました。あと、名寄は人口のわりに飲み屋が多いと言われますが、飲みに行く回数も多いんですよね(笑)。飲食の起業は、そんな意味でもしやすいかもしれません。
名寄市立大学生と一緒に、チャレンジできる機会をつくりたい
とはいえ僕もこの1年、初めてのことが多くて大変でした。美味しい料理を食べてもらうのはもちろんですが、お客さんの反応や売り上げを見ながらメニューを変えたり、確定申告も初めてですし、四苦八苦しながら前に進んでいます。でも、苦労の中で工夫が実ることもあり、おもしろいですね。オープンから数か月後、客足が落ち着いて悩んでいた時に手を入れたのは、メニューの見直しです。僕は日本酒が好きで、開店当初からこだわって置いているんですが、から揚げ中心のメニューだとなかなか注文が入らなくて。思い切って海鮮系や和食のフードを増やして、ずいぶん改善しました。ボリューム目当てでない社会人も来やすくなったのかもしれません。
この店は、僕の母校である、名寄市立大学の学生たちが活躍できる店にしたいんです。大学生でもいろんなことを考えられるし、できるよ、っていうことを街の人たちに感じてもらいたいなと思っていて。ですので、このメニューや飾っている絵も、大学生に書いてもらってますし、今後は厨房メインのアルバイトたちにメニューも開発してもらう予定です。
学生と協力して、いろんなことをやってみたいですね。
プロフィール
堀 伸吾
1996年北海道当別町生まれ。2019年に移住
いろんな人に「よく名寄に残ったね」と言われますが、実はその意味がわからないんです。都会のほうがいいっていう感覚でしょうかね。名寄は住みやすいし、名寄にないものはネットで購入すれば事足りるので不便さはまったく感じていません。食は美味しく、夏は心地よく、温泉があって、いい暮らしができています。
満腹居酒屋 くま
- 名寄市西2条南3丁目1-2
- 営業時間:17:00-24:00
- 営業日:月~土曜日
- 電話:01654-2-2310
- WEB:満腹居酒屋 くま