Vol.25 パンと向き合い、進んだ先に見つけた自分の生き方
研究の日々の中で気づいたパンへの思い
実は祖父が名寄でパン屋を営んでいたので、パンとのつながりは子どものころからあったんです。しかし、後を継ぐという発想は全くなく、名寄の高校を卒業後は、道内の工業系大学に進学、大学院まで粉体工学という粉の研究をしていました。車の摩擦材を作る千歳の会社に就職し、新規事業開発に伴って栃木の研究所に異動しましたが、そのころから研究職を続けることに疑問を感じ始めたんです。自分自身が何をやりたいか考えたときに、子どものころから身近に感じていたパンに関わりたいと強く想うようになり、転職を決意しました。
全くの未経験なので、まずは経験を積まなくてはと東京のパン屋に就職し3年間の修行後、懇願してフランスの支店でも9か月働かせてもらい、帰国後は店舗責任者として8年勤めました。その後は外資系スーパーマーケットのパン部門の責任者や、大手コンビニエンスストアの店内厨房やパンの商品開発に携わりましたが、成り行きでインドネシアへ視察に行ったら、そのまま海外事業部に異動しそうになったんです。いつか地元・名寄でなにかやりたいとは思っていて、改めて自分の年齢を考えると、もう海外に費やす時間はないなと。それがUターンのきっかけですね。また、東京という大都会で働く中で、自分が埋没していくというか、自分自身が見えなくなってきたという時期でもありました。
地域の人のあたたかいサポートと出会い
名寄に戻るにあたり、一番の問題は家族がいることでした。妻は東京出身で、義父母も東京、一人息子は中学生。いろいろと考えた結果、妻と子どもは東京に残って私が単身で名寄に行き、二拠点生活をすることにしました。現在もメインは名寄ですが、年に3~4回ほどは東京に帰っています。
名寄でパン屋を始めるために、本当にいろんな人に相談しました。土地を見つけてくれた方や、地元の農家とつなげてくれた方がいて、今も感謝しています。同級生にもとてもお世話になり、開業前には宣伝も兼ねた試食会を開いてくれたりもしました。高校時代はあまり話したことがなくても、同級生というだけで買いに来てくれた方もいてね。最初は不安も大きかったので、そういう存在はありがたかったです。人のつながりがなければ、ここまでたどり着けていないかもしれません。
ここ数年は幼稚園の給食でうちのパンを出しているのですが、園児とお母さんが一緒に買いに来てくれることもあります。子どもが「おいしかった」って報告してくれているんでしょうね。そういう流れが自然と生まれているのは嬉しいです。
この土地でしか生み出せないなにかを創りたい
北海道は食材が良すぎるので、そのまま焼いたり煮たり、素材を楽しむ食べ方が好まれるんですよね。あまり加工をしないんです。素材のおいしさはもちろん大切ですが、新しいおいしさを引き出したり、農家さんもまだ知らないような食べ方を生み出したりしたいですね。私は元々は研究者でしたが、自分は向いていないと思っていたんです。でもここに来て、やっぱり研究が好きなんだなと実感しています。
創業時からずっと考えているのですが、地域の風土や環境を活かしたなにかをしたいです。例えば名寄なら一番の魅力でもあり、資源でもあるのは「雪」。雪を使って発酵させたり貯蔵したりしたら、なにかおもしろい変化が起こるかもしれない。雪そのものが、なにかのエネルギーにならないかとか。こういうことを考えると、ワクワクするんです。「ベーカリーラボ」とかやってみたいな。食に限らずあれこれ研究して、この土地、この環境でしかできないもの創りがしたいです。
プロフィール
石田 誠次
名寄生まれ 2015年に単身でUターン、東京との二拠点生活を送る。
朝のスッキリした空気の中を歩くのが好きで、市内のワイナリーまで何時間もかけて行ったことも。目の前に広がるブドウ畑がとても美しくて、大好きなんです。夏には家に帰ると近所の人たちが、車庫でバーベキューをやっていることがあります。「寄ってきなよ!」と誘われて飲むビールも最高です。
BAKERY ISHIDA
- 西4条南2丁目10番地1
- OPEN: 8:00-18:00 / CLOSED: 火曜日
- Webサイト:BAKERY ISHIDA