Vol.27 困難を乗り越え二人で叶えた、最北のワイナリー。その先に見る自分たちらしさ。
探し求めたどり着いた、自分が本当にやりたかったこと
【裕二さん】
埼玉で生まれ、高校卒業後は北海道の大学に進学して4年間札幌で暮らしました。在学中はツーリングであちこち行ったりしていて、「いつか北海道で暮らしたいな」なんて思いながらも、一度は関東の会社に就職したんです。
ただ、会社員としての働き方が自分には合わなくて、3年で退職しました。その後1年ほどフラっとしている期間があり、埼玉から四国まで歩いて行ってみたり、鎌倉で木を彫ってみたり、自分がやりたいことを探していました。そうした中で、自分の糧になるもの、命の糧になるものが作りたいと思うようになり、札幌の農業担い手センターに行ったのがキッカケで名寄に農業研修をしに来たんです。
【麻理さん】
私は名寄の農家に生まれ、高校卒業後はそのまま実家の農業を手伝って就農しました。裕二くんと出会ったのは、近所のおじさんがキッカケで…。その方は私が小さい頃から「俺が結婚相手を見つけてやる!」って言っていたのですが、まさか本当に見つけてくるとは、ご縁とは不思議ですね(笑)
8年越しの思い、諦めずに叶えた最北の葡萄栽培
【麻理さん】
ワインを作るのが昔から夢だったのですが、結婚してすぐには相談しませんでした。裕二くんは名寄に来る前、農家になるか日本酒の杜氏(とうじ)になるか迷っていて、農業研修をしているときも冬場は旭川の酒蔵で働いていたぐらいだったんです。なので、もしワインを作りたいと言って日本酒になったら嫌だな、と思って少し様子を見ていました。3年経ってそろそろと思い相談してみると、意外とあっさり賛同してくれて。
【裕二さん】
旭川の酒蔵で働いてみて、名寄で農業をやりながら兼業するのは現実的ではないと分かったんです。だったら名寄でワインを作るほうが現実的だし、面白そうだと思って。ただ、もし名寄に酒蔵があれば杜氏になっていましたね。
【麻理さん】
それから葡萄栽培を始めたのですが、2年で木が全部ダメになってしまったんです。富良野で出来るなら、名寄でも出来ると簡単に考えて始めましたが、名寄は寒暖差が激しく、初夏でも降りる霜が厄介でした。その時はかなり落ち込み、ワインを飲めなくなって、手にすることも出来ず、ワインを遠ざけていました。
【裕二さん】
私はそこまで思い悩んではいなくて、このままってわけにはいかないと思っていましたが、彼女がこんな感じだったので様子を見ていたんです。
【麻理さん】
3年ほど経って、目の前に雲がかかった様な気持ちだったのが、突然”もう一回やらないといけない”と思ったんです。まるでお告げが下りてきたみた感じですかね。そこから葡萄栽培を再度挑戦することに決め、農地探しから始め、葡萄の品種の選定をやり直し、2014年に初収穫ができたんです。
【裕二さん】
再挑戦するにあたって、防霜対策は試行錯誤を繰り返しました。その中でも葡萄畑の中でかがり火を焚き、畑の温度が下がりすぎないようにしている光景は、ワインのラベルや森臥のロゴにも入れたり、うちの象徴のようになっていますね。
名寄産にこだわった、自分たちらしいワイナリー
【裕二さん】
葡萄の初収穫に成功してからは、醸造を岩見沢のワイナリーに委託をして、翌年ワインが完成しました。
【麻理さん】
初めてできたワインは、売れなくてもいいと思うぐらい特別なものでしたね。
【裕二さん】
醸造を委託してワインはできましたが、ゆくゆくは自分たちですべて作りたかったので、同時に醸造の修行もさせてもらえないか相談し、6年間修行させてもらいました。ただ、ワイナリーを作るには酒造免許が必要になるので、とてもハードルが高く、中でも年間の製造量をクリアするのが一番のネックだったんです。しかし、ある時名寄市の方からワイン特区取得の提案がありました。ワイン特区に指定されると一番のネックであった製造量の規定が下がるので、条件をクリアすることができ、2019年にやっと自分たちのワイナリーをオープンすることができました。
【麻理さん】
今は市内で卸しているのは、飲食店が2店舗と酒屋が1店舗ですが、札幌、旭川にも置いてくれるお店が増え、年に2回ここのワイナリーでも販売会をするのですが、その時もたくさんの方が来てくれてありがたいですね。
【裕二さん】
今後は生産量を増やしたり、新しいことに挑戦したりというよりは、今ある葡萄の木を大切に何年、何十年と育てていきたいと思っています。
プロフィール
竹部 裕二・麻理
【裕二さん】埼玉県出身。北海道の大学に進学、関東の会社に就職するが3年で退職。命の糧になるものが作りたいと、名寄に農業研修をするため移住。 【麻理さん】名寄市出身。農家に生まれ育ち、高校卒業後は実家の農業を手伝い就農。かねてより夢だったワイン作りを夫婦で始める。
【麻理さん】 森臥のロゴデザインやワインのラベルは、全部私の妹が作ってくれているんです。森臥のロゴは、畑を森に見立て、森、月、火で、葡萄畑でかがり火を焚いている様子を描いています。 【裕二さん】 これも彼女の中でお告げがあったみたいで、こういう構図で葡萄を絡めて、森と月と火とって、姉妹でしか分からないようなやり取りで、ここはしゃっと、この辺はもっとぼやっとみたいな説明で、2人で相談して完成しました。 【麻理さん】 妹は火をつける作業は見たことがなかったんですよね。もし見ていたら、ラベルの絵は描けなかったと言ってました。実際はもっと火祭りみたいな、すごい光景なので見てなくて良かったと思います。
森臥
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