Vol.5 名寄の食材を使って、地元の人に愛される店をつくる
評判の店を渡り歩きながら、技術と知識を積み重ねていく
実は、最初は釣り道具メーカーの営業マンだったんですよ。仕事は楽しかったんですけど、釣りブームが収束して忙しさのわりに結果が残せないというのもあって少し疲れてしまって。好きなことやって生きていきたいなと思った時に、食べ歩きが好きだったところから、料理の世界に飛び込みました。スープカレー屋に、それこそ普通に皿洗いから入ったんです。それが20代の後半なんで、この世界に入るには遅い方ですよね。ですが、いろいろな偶然が重なって割と早くにシェフ兼店長になりました。人気のスープカレー屋だったんで、テレビなんかにも出たりして、そこでフレンチやイタリアンのシェフたちと出会って、そちらの方にも興味が出てきました。学び方は、もう、フレンチやイタリアンの店でとにかく働く、というスタイル。修行を重ねていると、シェフで来てほしいと呼ばれるようになって、働けば働くほど技術と知識が積み重なっていくのがおもしろかったですね。夜12時まですすきのの店で料理作って、朝4時からパン屋で働くなんてのも当たり前にやってました。
地産地消がしっかりできる、理想の規模の街
自分の店を持ちたいと独立を考えたとき、大きな都会や「観光地」は外したんです。地域密着の店を作りたいという想いがあって、観光客ではなく地元の食材を使った料理を地元の人が日常的に食べられるお店にしたかったんです。名寄は釣り具メーカー時代に何度か来たことがありましたし、ここの食材の良さも知っていました。いろいろなご縁もあって名寄に決めました。オープン初期、地元の農家さんが食べに来てくれたんですよ。というのも、最初は道の駅で「日野さんのピーマン」とか書いてある野菜や食材を買って、その農家さんの名前を勝手にメニュー名に入れてたんです。すると、農家さんたちの間で噂になったみたいで、「うちの野菜を使ってください」という方が現れ、そこからはあっという間。地産地消ってそう簡単じゃないんですよ。都会は「他産」地消ですし、大きな農業地帯は地産があっても外に出ていって「他消」になる。観光地も地産「他消」になりがちです。名寄は生産者とお客さんの顔が見えて地産地消がしっかりできる、僕にとっては理想の規模の街です。
名寄の食材を使った、オンリーワンのメニュー、店へ
もっと腕も上げて、いろんな料理を開発していきたいと思っています。いまは、名寄の食材のおいしさをシンプルに伝えるようにしているんですけど、もっといろんな工夫をしたいなと。先日、北見から「グリーンカレーを食べに来ました!」というお客さんがいて。あのカレーは、名寄の寒締めほうれん草「星空雪見法蓮草」を使っているため冬季メニューで、「いまはやってないんです、ごめんなさい」なんて伝えながらも、とてもうれしい出来事でした。そんな風に、食材をもっと工夫して、美味しい料理に仕立てて、ここでしか食べられないというオンリーワンの店にしていきたいですね。名寄のひまわりポークを使ったレトルトカレーをつくって販売したり、店で使うカップに「I♥NaYoro」なんてプリントしたりするのも、名寄の良さをいろんな形で伝えたいと思うからなんです。
料理を通じた地域貢献。食を通じた「誇り」づくり
今年、隣町の美深町のチーズ工房が廃業すると聞いてそれを引き継ぎました。店の看板メニューを支えているおいしいチーズで、廃業すると聞いたときに、この地域の大事な資源がなくなってしまうと思って。当然大変ですが、地方で事業をやるからには地域への貢献も意識していますから、産業の火を絶やさずに、雇用を生み出すというのも僕にとっては大事なことです。最近は名寄や近隣の市町村の料理人とつながりを作って、情報交換をしたりイベントを始めたりしています。ローマでもミラノでも、イタリア人って「うちの街のご飯が一番ウマい」って言うじゃないですか。名寄もそういう街になって、食を通じた「地元愛」や「誇り」「プライド」みたいなものをたくさんの方にもってもらいたいんです。料理を作るのはもちろん、チーズ工房を存続させる、名寄グッズを作る、地域食材を宣伝する商品を作る、地元のシェフとつながる。どれも、そんな視点でいくとつながっていきます。あと、単純にアイデアを形にすると地域の人たちが喜んでくれるのがうれしくて、忙しいんだけどついつい始めてしまうんです(笑)
プロフィール
須藤 民篤
1973年北海道札幌市生まれ、2016年移住。妻、子どもと3人暮らし。
名寄に来てから、テレマークスキーを始めました。冬の景色がとってもきれいなんです。夏も自転車に乗って景色を眺めていると癒されます。名寄は自然も、都会的なものも、手の届くところにある、ちょうどいい街です。
AOZORA料理店
- 名寄市大通北3丁目17
- 営業時間:11:30-14:00、17:30-21:00
- 営業日:木~月(不定休有)
- 電話:01654-8-7416
- WEB:AOZORA料理店